熱伝導率が低いので
手に持っても熱くないが、
保温効果があるので
汁ものやご飯は冷めにくい。
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汁椀と飯椀、取り皿を重ねれば省スペースで収納でき、食器棚がすっきり。
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ご飯に汁もの、そしておかず3品程度が盛れる。食べすぎず、ちょうどよい分量だ。
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木地に透けた生漆を塗っては
布で拭き取る工程を繰り返す
「拭き漆」の作業。
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木地師と拭き漆職人の
確かな技術が引き出す
天然木の温もり
石川県加賀市の自然豊かな山間部に位置する山中温泉は、室町時代の僧・蓮如上人や松尾芭蕉も滞在したとされる情緒あふれる温泉街。この地で安土桃山時代から受け継がれてきた伝統工芸品が「山中漆器」だ。木地加工技術に秀でていることから、同じ石川県内の漆器産地と併せて「木地の山中」「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」と称されるも、伝統的な漆器づくりにとどまらず、プラスチック樹脂の素地にウレタン塗装を施す近代漆器の生産にいち早く取り組み、現代の生活に溶け込む食器を製作。結果、現在では日本全国の漆器の中で最大の生産高を誇る。
今回紹介したいのは、この山中漆器の食器3点セットと、酒器2点セット。天然欅の木目がじつに美しく、シンプルな形状ながら卓越した職人芸が光る品々である。本品を手がける「想贈」の山口功さんは語る。
「製作は木地師と拭き漆職人が分業で行ないます。ポイントは2つあり、1つ目が輪切りした木材から縦方向に木地を作り出す『縦木取り』。これによって乾燥による歪みが出にくい堅牢な漆器が出来あがり、薄挽きなどの精巧な仕上げも可能になります。2つ目が『拭き漆』です。これは木地に漆を塗り、拭き取り、磨く工程を何度も繰り返す技法で、椀の強度が増し、漆の艶によって木肌の繊細な美しさが際立ちます」
食器セットは汁椀、飯椀、取り皿をコンパクトに収納できる便利な構造。汁椀は断熱効果で熱い汁ものを入れても手で持つことができ、飯椀は優れた保温効果によりよそったご飯は冷めにくい。取り皿は汁椀の蓋として使えるうえ、副菜を添える小皿にもなる。
酒器セットは陶器やガラスに比べて熱伝導率が低く、器の外に熱が伝わりにくいのが特徴で、熱燗は熱いまま、冷酒は冷たいままでいただける。漆器ならではの質感が唇に心地よく、木肌は目に美しい。さらに、ぐい呑みは飲み口を広くしてあるので、おつまみをよそう小鉢としても使用できる。
「漆器は扱いにくいと思われがちですが、本品は軽量かつ頑丈に仕上げており、お手入れも手で水洗いし、素早く水を拭き取るだけです。ぜひ器の温もりを体感していただきたいです」(山口さん)
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工房の様子。山中漆器の生産工程は完全な分業制で、本品は熟練の木地師2名、拭き漆職人1名が腕を振るう。
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木地師が欅材を精密に削り出し、椀や酒器などの形に整えて研磨していく。1か月以上かけて、ひとつひとつ手作業で行なう。
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「拭き漆」の作業は1週間かけて5~6回行なう。こうすることで器が丈夫になり、表面が艶やかに仕上がるという。