阪神・淡路大震災で大打撃を受けたものの、日本を代表する産地として復興を果たした神戸の靴産業。より快適で足に優しい靴の開発は、今も進化を続ける。
特許製法と水に強い新素材で
足を柔らかく包み込む
ソールの色は、ブラウンはブラウン、ブラックはブラック、ネイビーはグレー。
水に強い新素材「マイクロファイバーレザー」をアッパー素材に採用。雨の日も安心。
手でねじれるほど柔らかく仕上がっており、窮屈さを感じない。インソールはかかとをすっぽり包み込むので安定感がある。
アッパーをインソールに貼り付けて一体化する特許製法で、中底や補強材が不要になった。これにより今までにない柔らかいシューズを実現。
靴の常識を一から疑ってみる
ベルは、シューズクリエーターの高山雅晴さんが、靴の理想を実現するため2011年に立ち上げた会社だ。
「理想の靴とは、足に負担をかけず、歩きやすくて美しい靴です。靴作りに携わる人すべての理想のはずですが、なかなか存在しないのはなぜだろう。靴の常識を一から疑って作りました」
靴の硬さやシルエットは、革素材の時代に確立した伝統だ。その後、さまざまな特徴を持つ合成皮革が登場したが、靴作りの考えは革時代のまま。
靴は、アッパーと呼ばれる足の甲を覆う部分を、中敷きの裏まで回して縫い付ける。中敷きと一体化させることで張りを保ち、ソールとの接着性を高めることが目的だ。合皮の時代に入っても、この手法は常識となってきた。
だが、ベルは独自に開発した技術で、マイクロファイバーレザーという素材で作ったアッパーをソールに直接貼り付ける方法を考案した。つまり中敷きを介さず強度を保つ。中敷きがないぶん、靴はよりしなやかで軽くなる。
「硬い靴を無理に履き続けて外反母趾になるような方を、ひとりでも減らしたい」と語る高山さん。
革靴の概念を覆す、この画期的なシューズは、2017年に引き続き2018年も第3位にランクイン。人は正しく歩くことで代謝を上げ、健康を維持できる。 「足は第二の心臓」と呼ばれる所以だが、われわれはふだん、硬い革靴に足を押し込んで歩くことを強要している。いかに多くの人々が、この靴を待ち望んでいたかが想像できる。
またこの靴は、健康重視の靴はファッション性に乏しいという定説も覆した。オン/オフで共用できるデザイン性のよさも魅力のひとつ。高反発素材を使ったインソールは次の一歩を心地よく導き、驚くほど軽やかに歩ける。その人気は、多くのリピーターが現れたことでも証明されている。
アッパー部分の製造を担当するのは女性陣。きめ細かな配慮とみごとなミシン捌きで、次々に作業をこなしていく。
震災以降、靴製造の業者は減ったが、今も靴は神戸市を代表する地場産業だ。写真は新長田駅前に立つ靴のモニュメント。
アッパーのパーツを型抜きする熟練職人。パーツの形ごとに作られた金型を甲皮の上にのせ、プレス機の圧力で一気に打ち抜く。
立体製品である靴のパーツは曲線的な形のものが多く、ミシンがけには高度な技術を要する。
特殊人工皮革のアッパーを、特許を取得した接着剤を使い、発泡ポリウレタン製のソールに直接貼り付ける。ここが正確でないと靴のシルエットが微妙に変わってしまう。