石膏型から取り出した後の削り出しの作業。こうすることで多孔質な生地の表面積が増え、蓄熱性が高まる。こうした機能に関わる重要な作業はひとつずつ職人の手で行なわれている。
国の伝統的工芸品の指定も受ける伊賀焼は三重県伊賀市を中心に作られる陶器で、鎌倉時代に生産が本格的になったと言われる。伊賀焼は耐火性、蓄熱性に優れていることが一番の特徴だが、その秘密は陶土にある。伊賀の陶土には400万年前に生息していた生物の遺骸が含まれており、高温で焼成すると、この遺骸部分が燃え尽きて細かな気孔ができ、多孔質な生地となるため“呼吸する土”とも言われ、熱を蓄えるため、遠赤外線効果が高く食材の芯までじっくり熱を伝えることができるのだ。
こういった特徴を活かし、天保3年(1832)に創業し、土鍋などを作り続けてきたのが、伊賀焼窯元・長谷園である。同社社長の長谷康弘さんは言う。
「台所だけでなく、食卓でも使える調理器具を作るというのが長谷園のコンセプトです。食卓で煮物や蒸し物が楽しめる土鍋を作ってきましたが、今度は焼き物を楽しめるものが作りたいと思って」
そうして3年もの試行錯誤を重ね開発されたのが、今回ご紹介する「微煙陶炉 やきやきさん」だ。煙が出にくく、遠赤外線効果でおいしく焼き上げることができる卓上グリルである。
水を入れるフチがついた中央が空洞の土台と、その上にのせる陶板の2つで1つとなる独自の構造が特徴的(左、断面の写真参照)。通常煙は350〜400℃で発生するため、その温度に達しないように、陶板と炎の距離を保ち、陶板の下を炎で柔らかく包む大きな炉のような設計に。温めた陶板は食材を置いても温度が下がりにくく、遠赤外線効果でゆっくりじっくり食材の芯まで熱を通し、おいしく焼きあげる。また陶板に施された傾斜のある溝に沿い、肉から出た余分な脂がフチの水に落ちるため、ヘルシーなうえ、煙の原因となる火への脂落ちがない。
「製作はまず石膏型で成形した後、陶板は裏面を、土台は全体を職人の手でひとつずつ削り出します。削り出すことで表面積が増えて、蓄熱性が高まるため、一個ずつ丁寧な作業が必要です。また陶板と土台は肉厚成形のため、2週間ほどかけてゆっくりムラなく乾燥させます。その後素焼き、釉を施し、本焼き。約3週間ほどで完成します」(長谷さん)