堂々とした富士山の雄姿を、上空から見下ろす視線で描く大作である。輝きを抑えた金を用いる雲海から、雪を頂く霊峰の白が清々しく立ち上がる。山容は墨色の微妙な濃淡と、紙面に広がる滲みとぼかしにより形づくる。山腹を覆う空気にも見事な味わいが生まれ、単純なようで円熟した水墨技法を見ることができる。横山大観の数多く描いた富士の中でも、特に気高く自信に満ち溢れた姿である。
　（中略）戦時中、大観のとった立場は「彩管報国（さいかんほうこく）」、すなわち筆をもって国に報いようとするものであった。大観は、富士をもって日本の「心神」を、気魄（きはく）を描こうとした。本作の題「日本心神」は、まさにこの富士観をよく示している。しかし昭和20年（1945）、太平洋戦争が終結すると、報国の念を籠めた富士の主題をめぐる国民感情はやや複雑な様相を呈してくる。それでも、大観は富士山を描くことをやめなかった。大観にとって気高く清々しい富士の姿は日本の魂の象徴であることに変わりはなく、いついかなる時でも美しい「無窮の姿」であった。（中略）戦時中の暗い背景とは別に、真摯に日本の象徴としての誇り高い姿を追求し続ける姿勢が、「日本心神」にはある。現代に生きる我々をも強く魅了する所以であろう。
（五島美術館学芸員　福島修／本品解説書より抜粋）


【近代日本画壇の巨匠、横山大観の作品を厳密復刻】
大観は、「富士を描くということは、つまり己を描くことである」と語り、生涯のテーマとして数多くの富士図を描き続けた。この言葉に表されているように、大観の富士からは、自身の気魄や深い人間性がひしひしと伝わってくる。
　なかでもこの「日本心神」は、壮大壮麗な富士の姿を通して、大観の気概がもっともよく表現された名作として知られる。


【デジタル・プリンティング・アートによる復刻】
　この技法は、版画のノウハウと最新の画像処理技術を融合させた、新しい復刻方式である。特殊なプリンタのノズルから噴き出る無数のインクの超微粒子が、実際に絵筆で描くかのように直接に作品を描いてゆく。これまでの複製画とは一線を画する再現性で、大観芸術をご鑑賞いただきたい。


【横山家の監修と所蔵館の全面協力のもと、初めて精緻に再現】
　「日本心神」の原画は大作であり、その迫力をそのまま再現することは大変難しいとされ、これまでその復刻が許可されることは一度もなかった。しかしこのたび、五島美術館の所蔵作品を高い精度で数多く刊行してきた小学館の実績が認められ、この門外不出の名品を初めて復刻することとなった。
　作品の１点１点には、監修者であり、著作権継承者である横山隆氏（横山大観記念館・理事長）による横山家の検印と原画を所蔵する五島美術館の検印が付される。さらに、限定番号入りの証明書も付く（額装は額裏に、軸装は桐箱の蓋裏に貼付）。これにより本作品が、著作権者の監修と所蔵館の正式な許可を受け、480部に限り復刻された価値ある美術品であることを証明する。
　また、原画を所蔵する五島美術館において、幾度となく原画との色校正を行なった。これにより、墨と金で描かれた富士の微妙な色彩や陰影に至るまで、その細部の精密な表現が初めて可能となった。


【横山大観・よこやまたいかん（1868年～1958年）】
　1868年、茨城県水戸市に生まれる。橋本雅邦（はしもとがほう）に日本画を学び、岡倉天心（おかくらてんしん）が掲げた世界に誇れる「日本の絵画」の確立という理想に共感し、下村観山（しもむらかんざん）、菱田春草（ひしだしゅんそう）とともにその実現に向けて邁進。明治、大正、昭和と長きにわたり、常に新たな画境を追い求めた。1937年には第一回文化勲章受章の栄誉に輝き、日本画家として不動の名声を得る。2018年、生誕150周年を迎え、改めて注目を集めている。

【額装】縦63×横84cm。額縁は栂材濃茶色特製和額（内枠金泥仕上げ）、高平面アクリルガラス。布マット（無地平織り）。吊り金具付き。タトウ箱（黄袋入り）。
【軸装】縦136×横78cm。三段表装。上・下は利休茶地木瓜唐草文緞子。中廻しは正絹牡丹唐草文緞子。風帯・一文字は金襴竹屋町唐草。軸先は牙代用頭切。柾目桐箱、タトウ箱付き。
ともに画寸は縦41×横62cm（原画の34％大）。復刻技法はデジタルプリンティングアート、シルクスクリーン併用。用紙は阿波和紙。証明は横山家／五島美術館の検印・限定番号入り証明書。限定480部。日本製。

※掲載しております所属や肩書は発刊当時のものとなります。