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BAR CINEMA~この映画に乾杯!(第6回) 『天使の分け前』 ――シングルモルトウイスキーには水を少しだけ……

カテゴリ | BAR CINEMA~この映画に乾杯!

第6回:天使の分け前
シングルモルトウイスキーには水を少しだけ……

BAR CINEMAへようこそ。

このバーでは、皆さまの記憶に残る映画の名シーンを彩った素敵なお酒を、映画の時代背景、お酒の由緒・成り立ちと合わせてご紹介し、ご賞味いただきます。

「スプリングバンク」が3本。右手前から現行のオフィシャルボトル(蒸留所が瓶詰めしたもの)「8年」、十数年前のオフィシャルボトルの「21年」、ボトラーズと呼ばれる瓶詰め業者が販売する「1993年」。
スプリングバンク蒸留所はスコットランドの西南、キャンベルタウンにある。塩味からしだいに蜂蜜を感じさせる風味は、シングルモルト愛好家の中でも人気が高い。
度数の高いウイスキーをストレートで飲む場合は、小さめのロックグラスを使うのもおすすめ。

ロビー:Can I have some coke to up?
ハリー:No, just a drop of water.

「天使の分け前」(THE ANGELS’ SHARE)とは、木樽に入れて熟成させていたお酒が、熟成の過程で少しずつ蒸発して少なくなってしまうこと。とくにスコットランドで造られるスコッチウイスキーは8年や12年など、熟成期間の長いものが多く、その分、「天使の分け前」は多くなります(ちなみにアメリカで造られるバーボンは2年以上の熟成が義務づけられています)。
この映画はスコッチの中でも、単一の蒸留所で造られる、個性的な味わいのシングルモルトウイスキーを題材にしています。映画に出てくるウイスキーも登場人物も個性的、語られるうんちくもかなりマニアック。ある意味、〝通〟向けの映画だと思うのですが、2012年カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞しました。

スコットランドのグラスゴーで荒れた生活を送っていた若者ロビー(ポール・ブラニガン)は暴力事件を起こして捕まり、裁判にかけられる。妊娠している恋人のレオニー(シヴォーン・ライリー)が彼に良い影響を与え、父親としての自覚が目覚め始めたことでチャンスをもらい、禁固刑を免れ、300時間の社会奉仕をすることに……。

ペンキ塗りの奉仕活動中、監督係を務めるハリー(ジョン・ヘンショー)のケータイに、レオニーが産気づいたという連絡が入る。ハリーはロビーを連れて病院へと向かうが、結婚に反対しているレオニーの叔父たちがロビーを殴りつけ、「レオニーや赤ん坊に近づいたら……」と脅迫する。

ハリーは負傷したロビーを自宅に連れて行き、食事を与える。そこへレオニーから男の子が誕生したという報告の電話が入る。「もらい物なんだが、特別な日にと取っといた」と、シングルモルトウイスキーの銘酒「スプリングバンク32年」を開けるハリー。ふたりでロビーの息子の誕生を祝うのだが、ウイスキーが初めてというロビーの、ひとくち飲んだ感想は「何だこれ? ひどい味(taste of shit)」「コーラ割りに」。それに対して、ウイスキー愛好家のハリーが答えたのが冒頭のひとこと。「(だめだ)水を少しだけ」。
(※この映画のDVDには英語字幕がついていなかったため、間違っていたらすいません)

この飲み方についてご説明する前にまず、「シングルモルトウイスキーとは」からお話しましょう。
スコットランドには蒸留所が今も100か所ぐらいあり、スプリングバンクもそのひとつです。つまり、「スプリングバンク」はウイスキーの銘柄ですが、同時に蒸留所の名前でもあります。ちなみに、この32年物は正規では日本に輸入されていませんが、ネットショップでは1本4万円台で販売されているようです。本当に高価な逸品です。

前述しましたが、シングルモルトの最大の特徴は、各蒸留所がそこで蒸留したウイスキー原酒だけを使って造ること。なので、蒸留所のロケーションや、原料となるモルト(大麦麦芽)の仕様、ポットスチルと呼ばれる蒸留釜の形状などの違いが、そのままウイスキーの個性となって表れます。

また一部のシングルモルトウイスキーの特徴として「ピート香」があげられます。映画の中では、「ピートって誰?」という台詞も出てきますが(笑い)、ピートとはスコットランドの地面深くに埋まっている「泥炭」のこと。土が5000~6000年を経て炭状になったものです。この国では、それを掘り起こし燃料にする文化が根付いています。

ウイスキーを造る工程には、麦芽を乾燥させる作業があります。床に敷き詰めた麦を、いぶしたピートの煙で乾燥させ、発芽を止めるのです。
15年以上も前のことですが、スコットランドを旅した時に、私はベンリアックという蒸留所で、初めてこの作業を見ました。そして、強い燻煙でむせ返りそうになったのを昨日のことのように覚えています。
この工程で麦芽にスモーキーな香りがつきます。このフレーバーをどのぐらい生かすかでスコッチウイスキーの風味に大きな影響が出てきます。

ロビーがハリーや仲間とともに参加したウイスキーミーティングでは、「ラガヴーリン16年」というウイスキーが紹介されました。この会の講師ロリー(チャーリー・マクリーン、スコッチウイスキーの世界的権威)がラガヴーリンをこのように表現します。
「すばらしくリッチでかすかに海の香り」
「まずふくよかに甘く、その後スモーキーさが弾ける」
「実にエレガントなアイラ島のプリンス、華やかです」

スコットランドの西側にある小島、アイラ島(Islay)。シングルモルトを語るうえで、このアイラは欠かせません。小さな島に8か所の蒸留所があり、個体差はあるにせよ、どの銘柄もピートの香りが強くスモーキーです。この島のウイスキーは、海からの潮風を受けタフに育っていきます。口に含むと、正露丸かヨードチンキか!? と思うほどの薬品香がして、最初は抵抗があるかもしれませんが、徐々に慣れてくるはずです。その奥にフルーティな香りや蜂蜜のような甘さが感じられるかもしれません。そう感じ始めたら、もうこのお酒の虜。後戻りはできません(笑い)。
  • BAR CINEMA~この映画に乾杯!(第6回) 『天使の分け前』 ――シングルモルトウイスキーには水を少しだけ……

    アイラ島の逸品「ラガヴーリン」。右手前がオフィシャルボトルの16年、左後ろがボトラーズの21年。強めのピート香からは想像できないふくよかな甘い味。スモーキー=ドライではないことをこの一杯が証明してくれる。
    グラスはスコットランドの国花であるアザミが描かれたエジンバラクリスタル。

  • BAR CINEMA~この映画に乾杯!(第6回) 『天使の分け前』 ――シングルモルトウイスキーには水を少しだけ……

    映画の中のウイスキーミーティングではロビーほか4人が、出されたウイスキーの銘柄を当てるブラインドテイスティングに挑戦。ロビーは「たぶん銘柄はグレンファークラスかクラガンモア」と答え、最終的に「グレンファークラス」を選ぶが、正解は「クラガンモア12年」だった。
    しかし、この2本の味わいは、私にとっては全くの別物。私の店のスタッフにもブラインドテストさせましたが、やはり迷うことはありませんでした(笑)。
    クラガンモアは有名なブレンデットウイスキー「オールドパー」の原酒。ユリの花、香草の華やかなやさしい香り、そして舌の上に乗せると麦の風味が広がっていきます。
    「グレンファークラス」はマッカランと並んでシェリー樽で熟成したウイスキーの代名詞。やさしめのピート香、湿った木や葉の香り、ひとくち含むと少しパンチがあり、しだいに甘味へ変化していきます。
    ふたつとも甘味はありますが、クラガンモアは麦由来の甘味、グレンファークラスは樽由来の甘味のように感じます。

  • 画像

    蒸留所巡りの旅行中、ダフタウンという街にて。B&BやFISH&CHIPSの看板がバックに見えていかにもスコットランド。しかし18年前私は若かった!

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