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第二回:山本合金製作所 山本晃久さん

カテゴリ | ニッポンの職人伝

信仰の象徴と職人の技を映し出す「魔鏡」

キリスト教が弾圧された安土桃山時代から江戸時代、キリスト教徒の大名は改心を強制され、外国船は自由な寄港を禁じられた。宣教師は追放されていき、それでもキリスト教信者たちは、隠れてその信仰を全うした。その時代に作り出されたのが「魔鏡」である。

極限まで研磨されることで、一見しただけでは、覗き込んだ者の眼を映し出す美しき青銅鏡。しかし、その鏡は光を反射させることで、キリストや十字架など、隠された像を壁に投影させるのだ。
  • 第二回:山本合金製作所 山本晃久さん

    銅を主成分として、スズを含む合金が青銅。これを鋳型に鋳造したのち研磨を施す。

    「職人が自分の技を駆使して、人々の祈りを支えたことに魅力を感じます」と語る山本合金製作所の5代目鏡師、山本晃久さん。山本合金製作所は江戸時代末期に創業し、伊勢神宮をはじめ全国の神社に御神鏡を納める、京都唯一の鏡工房だ。明治時代、人々が信教の自由を手に入れるとともに、役目を終えた「魔鏡」は作り手を失うことになった。ロストテクノロジーとなっていた「魔鏡」を1974年に復活させたのは3代目・山本真治氏だ。

  • 第二回:山本合金製作所 山本晃久さん

    裏面に模様を施す鏡には、砂で作った鋳型に「ヘラ」という道具で細やかな模様を描く。

    「職人は儲けを考えなくていい。よい鏡を作っていればいい」と、3代目に教えられ、鏡師の修業に没頭した晃久さん。「当時の人々の思いを今に再現すること、そして新しい試みで魔鏡を広く知ってもらうことが重要」と、アーティストやデザイナーとのコラボレーションも展開している。

  • 第二回:山本合金製作所 山本晃久さん

    鋳造が終わり、砂の型を払った鏡を、ヤスリやセンで削って仕上げていく青銅鏡。

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     京都市は西本願寺近くにある山本合金製作所。旧花街の島原と梅小路公園が隣接するこの街では、歴史と自然の調和が日常的に存在する。この地で、父であり4代目鏡師である山本富士夫氏と3人の職人とともに、一日中、ヤスリで鏡を削る音の中で和鏡の製作に没頭する晃久氏。
    幼少の頃は家業にあまり関心を持っていなかったが、今と同じヤスリの音の中で、先代、先先代が和鏡を製作する自信に満ちた背中を見ていたという。工房を継ぐことを強要されたわけでもなく、後に学生時代のアルバイトの感覚で仕事を手伝い始めたが、そのまま和鏡の魅力に気づいて、技術習得のための厳しい修行に明け暮れることになる。その実績は、2014年にローマ法皇に献上された魔鏡を手がけるなど、すでに輝かしいものだ。
    「古典的な魔鏡を守っていくことは、その当時の人々の想いを再現する意味で、とても重要だと考えます。その一方で、新しい試みをすることにより魔鏡を広げていくことも重要だと考えます」
    という晃久氏は、新しい時代の魔鏡を模索し、アートプロジェクトなどに積極的に参加して、アーティストたちとのコラボレーションも試みている。

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     磨き抜かれた青銅の鏡に、光を反射させることで浮かび上がるのは、はりつけのキリストと、その足元で祈りを捧げる2人のシルエット。この2人の人物は、キリスト教が弾圧された安土桃山時代から江戸時代にかけて、忍んで信仰を全うするしかなかった敬虔なキリスト教徒たちにも見える。そのいわゆる「隠れキリシタン」たちが、実物ではない、あまりにも儚い像に祈りを捧げてきた長い年月を思うと、時代に翻弄された人々が抱いていた信仰心の力強さに感動を覚える。魔鏡とは、その恐ろしげな名前とは裏腹に、人々の祈りと願いに寄り添った工芸品と言えるだろう。
     明治時代、隠れキリシタン達がキリスト教信仰の自由を取り戻したとき、一度は役目を終えた魔鏡。作り手を失っていたこの鏡を、1974年に蘇らせたのは山本合金製作所の3代目鏡師である山本真治氏だ。無形文化財として表彰を受け、現在、この工房で国内唯一となる魔鏡を製作するのは、真治氏からその技術を伝授された5代目鏡師、山本晃久さん。
    「綺麗な像が投影された時が嬉しいですし、それを見て驚いていただける事が嬉しい」と語る。
     一見すると魔鏡は、青銅から磨きだした曇りなき鏡面と、背面にあしらった松や鶴の美しい紋様に目を奪われるが、その技巧の真髄は鏡の中に隠されている。それはまさに、かつての信仰者を迫害から守った技巧なのだ。

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     この魔鏡の製作過程はシビアなものだ。浮かび上がらせたい模様を施した鋳型に青銅地金を流しこむ。模様のある面を裏面とし、表側の鏡面を削って薄くしていくと、人間の目では判別が難しいほど微細な凹凸が浮き出てくる。この鏡面に光を当てることで乱反射させ、背面の模様が像となって映し出されるのだ。
     ヤスリや、センという聞きなれない道具を使って、鏡面を厚さ4mmから1mmまで薄く削ってゆくが、この工程には1か月を要する。
    「新しいデザインに挑戦する時は、大体一度は削り過ぎてしまって失敗してしまいます」
    というほど繊細な削りを、集中しながら長い期間を使ってかけてゆく。そのひと削りをどこで止めるのかを見極めるのは、技術と経験が培った職人にだけ備わる勘の冴えだ。まさに真剣勝負そのものの製作過程といえる。
    「この技術を次代に繋げていくためにも、皆さまに愛でてもらえる鏡を作れるようがんばりたいと思います」という晃久さん。
    「一人前の鏡師になるには30年かかる」という3代目・山本真治氏の言葉を胸に、今日も魔鏡の新境地に挑み続けている。

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