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第四回:イケテイ×廣瀬鞄製作所

カテゴリ | ニッポンの職人伝

お互いの想像を超える企画者と職人の関係

「朱子は、革だとか布帛だとかいう材質の違いを超越した素材だ」とシルバーレイククラブ企画者の吉田伸一さんは言う。「朱子織り」は、すでに織れる職人がほとんどいないほど目が詰まった生地で、コットンなのに光沢があり、手触りもなめらか。吉田さんがそれまで使っていた帆布とは性質が異なる上級素材だ。「朱子織り」を使うと決めた当時、吉田さんの脳裏に「革の職人に、革の鞄を作る技術で作ってもらったらどうなるのか」というアイデアが浮かんだ。
  • 第四回:イケテイ×廣瀬鞄製作所

    鞄と革を知り尽くし、自らさまざまな道具を用いて鞄を仕上げていく廣瀬さん。

    シルバーレイククラブは、同ブランドの鞄だけを20個も購入したり、同じデザインの鞄を買い替え続けたりといった、作り手の気持ちに共鳴するユーザーが多いそうだ。高級ラインを任せる職人は、廣瀬鞄製作所の三代目、廣瀬晴幸さんしか考えられなかった。

  • 第四回:イケテイ×廣瀬鞄製作所

    鞄で遊び、鞄を知り、鞄を作り続けるシルバーレイククラブ企画者の吉田さん。

    廣瀬さんは革鞄のスペシャリスト。鞄が使われるシーンを想像し、見えない箇所にも徹底的に手を入れる。「私の要望は多いし、無茶も言うのだけど、廣瀬さんはそれ以上(のこと)をやってくる」と、吉田さんは信頼をよせる。そして廣瀬さんはと言えば、「いつも、吉田さんが何を言い出すかがいちばん怖い」と笑って言う。「発想が面白いし、人がやったことがないことをやるのが好きな方。これに応えるのが精一杯」だとも。互いに驚き応える関係が、見たこともない鞄を生み出しているのだ。

  • 第四回:イケテイ×廣瀬鞄製作所

    工房にて左から、廣瀬晴幸さんと吉田伸一さん、そして廣瀬鞄製作所・二代目の廣瀬重忠さん。

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     廣瀬鞄製作所は、革の鞄を専門とする工房だ。朱子織りというコットン素材の鞄を依頼した吉田さんには、あえて革の職人に作ってもらいたいというアイデアがあった。
     しかし廣瀬さんは「ウチは、革以外のこういう異素材を使って鞄を作ることはほとんどない」と、当時のとまどいを語る。「生地に対して知識がないと、それはもう苦労してしまう。普通だと断ってしまうが、吉田さんとなら」と、結局は「スコットランドシリーズ」の製作を快諾した。
    「吉田さんは発想が面白いし、人がやったことがないことをやるのが好きなので、話が合うというか、尊敬している」と語る廣瀬さん。一見、突拍子もないアイデアを真剣に考えて実現することは、新たな技術を獲得するチャンスでもある。企画者と職人の絆が生み出した鞄。その「スコットランドシリーズ」は、2017年冬、満を辞して復刻されることとなった。
    「2004年に作ったものは、仕上がりの段階で生地の張りが足りないようなところがあった」と語る吉田さん。きちんと生地を裁断しているのだが、鞄として縫製したときに、朱子織りの生地がふっくらと仕上がっていなかったというのだ。そんな、微妙な仕上がりの違い。これを廣瀬さんに相談したところ、「わかりました」という即答を得た。廣瀬さんが新しく作ったサンプルは、朱子織りの生地に張りがあり、きれいなカーブを描いて、ふっくらと自然な仕上がりになったという。
     ユーザーから不満の声があったわけでもない、仕上げに対する企画者のこだわり。そして、その意を汲み取り、作り出す製品で回答をしめす職人の技術。この阿吽の呼吸が、ただの復刻ではない、新しい「スコットランドシリーズ」を生み出したのだ。

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     廣瀬鞄製作所は、江戸川沿いの閑静な住宅街にたたずむ小さな工房だ。その横手のガレージには三代目・廣瀬晴幸さんが親子3人で楽しむ、大型バイクが3台並んで止めてある。
    「関東の職人さんは、昔から匠職人と言われます。ひとつの製品を、すべて同じ職人さんに作ってもらう。だから製品の完成度がどんどんこなれていって、よくなっていくんです」と語る廣瀬さん。廣瀬鞄製作所は鞄を設計し、実際にサンプルを製作して、懇意にしている腕の確かな職人に、細かな製法を伝えて製作するスタイルをとっている。
    「鞄というのは縫製してから、ひっくり返す必要がある。パーツが多くなるほど鞄は便利になるが、ひっくり返すのが難しくなる」と、廣瀬さん。しかし吉田さんは「私は結構、無理難題を言う方です」と微笑む。「パーツが増えるたびに、補強をどのようにするかが一番大きな問題」と廣瀬さんが言うように、鞄にはそうした見えない部分の工夫が無数に存在しているのだ。
     職人が培った新たな技術は、それを伝えられた別の職人がさらに深め、広がって定着してゆく。そうして関東の匠職人たちは、世界に誇るべきモノ作りの技術を身につけていったのだろう。

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     廣瀬鞄製作所は三代目・廣瀬晴幸さんと、その父であり二代目である廣瀬重忠さんが今も現役で、鞄作りに没頭している。「職人の工房は汚れている。綺麗なのはダメ」と笑いながら、革切り包丁を研ぐ。厚手の革でもスパッと薄く削いでしまうその鋭い刃は、1日に何度も研いで切れ味を維持しているそうだ。
     そして、工房の中で一際存在感を放っているのが旧式のミシンだ。今は製造されていない古いミシンをストックしており、万が一の故障にも備えている。「昔のミシンは力がある」という言葉通り、厚い革にズバズバと針を通して力強く縫っていく様には、迫力すら感じる。戦時中には、祖父がミシンを持って空襲から逃げたという逸話は、職人にとって道具がいかに大事なものかを物語っている。
     東京の下町で、愛用の道具に囲まれながら真摯にモノ作りに取り組む職人の親子。こうした風景が日常にある限り、日本の製品は世界に驚きを与え続けるのである。

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